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## 姉騎士、秘薬に沈む

冷たい風が、精鋭騎士団「鉄血の盾」の練兵場に吹き荒れていた。その中心で、すらりと伸びた銀髪を纏った凛々しい女性が、激しい剣技を披露していた。彼女こそ、王国でも名高い「鋼鉄の乙女」と称される、姉騎士アリアだ。その武勇と公正さから、多くの者から尊敬を集めていた。

「ふぅ…」

一際鋭い一撃を放ち終えたアリアは、額に滲んだ汗を袖で拭った。数日前から、原因不明の体調不良に悩まされていた。全身の倦怠感、微熱、そして何よりも、体の芯から湧き上がるような、抑えきれない熱。騎士としての任務に支障こそ出ていないものの、このままではいけないと、アリアは焦りを感じていた。

「姉様、お加減はいかがですか？」

心配そうな顔で駆け寄ってきたのは、アリアの弟であり、優秀な薬師でもあるリオンだった。彼はアリアの顔色を覗き込み、眉をひそめる。

「リオン…少し、具合が良くないのだ。原因が掴めなくてね。」

アリアは力なく微笑む。リオンはアリアの脈を取り、真剣な表情で薬草の書物を捲り始めた。

「これは…珍しい症状です。もしかしたら、王都の図書館にある禁断の書物に、手がかりがあるかもしれません。」

リオンはそう言い残し、足早に王都へと向かった。アリアは一人、練兵場に立ち尽くし、空を見上げた。体調不良の原因は、彼女自身も全く見当がつかなかった。ただ、体の中から噴き出す熱は、日増しに強くなっているように感じられた。

数日後、リオンは王都から帰還した。その手には、古びた、しかし厳重に封印された書物が握られていた。

「姉様、見つけました。これは『古の秘薬書』と呼ばれるものです。ここに、姉様の症状に合致する記述がありました。」

リオンは緊張した面持ちで、書物の一ページを開いた。そこには、古びた文字で、ある「秘薬」の処方と、その効能について記されていた。

「これは…『星屑の雫』。非常に強力な癒しの力を持つと同時に、使用者によっては、体の奥底に眠る欲望を呼び覚ます、という記述があります。」

アリアは眉をひそめた。「欲望…？私に、そのようなものがあるのだろうか。」

「書物によれば、この秘薬は、特定の体質を持つ者にのみ、その効果が強く現れるとのことです。姉様は、騎士として揺るぎない精神をお持ちですが、それ故に、普段は抑圧している感情が、この秘薬によって解放されるのかもしれません。」

リオンはアリアの様子を伺いながら、慎重に言葉を続けた。

「しかし、姉様。この秘薬は、非常に特殊な調合方法を要します。そして、その成分の中には、ある特殊な『補助薬』が必要となります。それが…」

リオンは言葉を詰まらせた。アリアはリオンの顔色を読み取り、促すように尋ねた。

「それが、どうしたのだ？」

「その補助薬は…えっと、その…」リオンは顔を赤らめ、視線を彷徨わせた。「その、使用方法が、非常に、その…」

アリアはリオンの様子に、一層の疑問を抱いた。「一体、どういうことなのだ、リオン？」

リオンは観念したように、深呼吸をした。

「姉様、この補助薬は…その、直接、体内に…、その、注入しなければ、効果を発揮しないのです。そして、その注入方法も…」

リオンは言葉を続けることができず、アリアの顔を真っ直ぐに見つめることができなかった。アリアは、リオンが何を言おうとしているのか、次第に察し始めていた。

「…注入、とは？体内に、とは…一体、どこに？」

リオンは震える声で答えた。「それは…その…直腸に…」

アリアは息を呑んだ。直腸…？彼女の脳裏に、今まで考えたこともなかった、ある種の強烈なイメージが駆け巡った。

「…そのような、方法が…？」

「はい、姉様。書物には、そのように…」リオンは消え入りそうな声で言った。「しかし、安心してください！もし、姉様がこの秘薬を望まれるのであれば、私が、責任を持って調合し、そして…その、注入も、私が、行います！」

リオンは決意を固めた顔で、アリアを見上げた。アリアは、リオンの真剣な眼差しに、戸惑いながらも、ある種の諦めと、そして微かな期待のようなものを感じていた。体調不良は、日増しに悪化していた。このままでは、騎士としての務めさえ、全うできなくなるかもしれない。

「…分かったわ、リオン。その秘薬、試してみましょう。」

アリアは、自分でも驚くほど、冷静に答えた。

後日、リオンは調合した「星屑の雫」と、その補助薬をアリアの部屋に持ってきた。部屋は薄暗く、アリアの心臓は激しく鼓動していた。リオンは、アリアの前に薬瓶と、そして、細長い器具を並べた。

「姉様、この補助薬は…その、体温で溶けやすくなっております。そして、その…」

リオンは、アリアの傍らに跪き、その表情には、緊張と、それ以上に、ある種の真剣な決意が宿っていた。アリアは、リオンの目を見つめ、静かに頷いた。

「…頼むわ、リオン。」

リオンは、アリアの言葉に、深く頷き、そして、震える手で、補助薬を器具にセットした。アリアは、リオンに身を委ねた。冷たい空気が肌を撫で、アリアの心臓は、まるで嵐のように荒れ狂っていた。

「…姉様。少し、冷たいかもしれません。」

リオンの声が、アリアの耳に届いた。アリアは、ぎゅっと目を閉じた。

そして、リオンの細やかな手つきによって、補助薬が、ゆっくりと、アリアの体内に、滑り込んでいく。その感覚は、今まで経験したことのない、不思議な感覚だった。体の奥底から、熱が、じわりじわりと広がるのを感じた。

「…はぁ…」

アリアの喉から、思わず、吐息のような声が漏れた。それは、苦痛でも、快感でもない、ただ、体が、未知の感覚に反応している、という証だった。

「姉様、大丈夫ですか？」

リオンの声は、遠くで響いているようだった。アリアは、ゆっくりと目を開けた。リオンが、心配そうに、しかし、どこか真剣な眼差しで、アリアを見つめている。

「…大丈夫よ、リオン。」

アリアは、そう答えた。しかし、その声は、自分でも驚くほど、甘く、そして、どこか掠れていた。

補助薬が体内に馴染むにつれて、アリアの体は、次第に熱を帯びていった。それは、単なる熱ではなかった。体の奥底から、抑えきれない、衝動のようなものが、湧き上がってくるのを感じた。

「…姉様、秘薬を…」

リオンは、準備しておいた「星屑の雫」を、アリアの手に渡した。アリアは、その薬瓶を握りしめ、ゆっくりと、それを飲み干した。

薬が全身に回るにつれて、アリアの感覚は、さらに研ぎ澄まされていった。体の倦怠感は消え去り、代わりに、全身を駆け巡る、強烈な熱と、そして…

「…っ！」

アリアの体が、ビクッと跳ねた。それは、今まで経験したことのない、激しい、しかし、心地よい感覚だった。体の奥底から、何かが、弾け飛ぶような感覚。

「姉様…？」

リオンは、アリアの様子を、固唾を飲んで見守っていた。アリアは、顔を上げ、リオンを見つめた。その瞳は、普段の凛とした輝きとは異なり、どこか、蕩けるような、甘い光を帯びていた。

「…リオン…」

アリアの声は、さらに甘く、そして、掠れていた。リオンは、アリアのその表情に、心臓が跳ね上がった。

「姉様、あの…」

リオンが言葉を続けようとしたその時、アリアは、リオンの腕を掴んだ。その力は、普段のアリアからは想像できないほど、強く、そして、どこか、必死だった。

「…リオン…私…」

アリアは、震える声で、リオンに囁いた。その言葉は、リオンの耳に、甘く、そして、熱を帯びた風のように、流れ込んできた。

「…姉様…」

リオンは、アリアの瞳に映る、自分自身の姿を見た。そこには、普段の姉騎士アリアとは、全く異なる、しかし、どこか、自分だけに見せる、愛おしい表情が、あった。

秘薬の効果は、アリアの体を、そして、その心を、ゆっくりと、しかし確実に、変えていった。それは、騎士としての厳格さとは対極にある、ある種の、解放だった。そして、その解放の先に、アリアとリオンは、二人だけの、未知の領域へと、足を踏み入れていくのだった。

夜は更け、星屑の雫の神秘的な輝きが、部屋の片隅を照らしていた。アリアの部屋には、普段の厳かな空気とは異なり、どこか、甘く、そして、熱を帯びた空気が、漂っていた。それは、秘薬がもたらした、一夜の、そして、もしかしたら、それ以上の、変化の始まりを告げる、静かな、しかし、確かな予感だった。