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## 迷宮の解析屋 ～最弱スキルは、最愛の蕾を咲かせる～

「……はぁ、またこれか」

 ログインボタンスキルが唸りを上げ、画面いっぱいに広がるのは、お決まりの「体験版ムービー」の文字。1024x768サイズのMP4形式。容量はそれなりにあるが、ダウンロードに時間がかかるという注意書きが、この世界の常識からすれば些か気になった。

俺、アレンは、この世界で「解析屋」という、極めて地味な職業に就いていた。パーティの裏方で、モンスターの弱点やアイテムの情報を分析する。しかし、俺の解析スキルは、どうにも「最弱」の烙印を押されていた。使えるのは、モンスターのステータス表示と、たまにアイテムの簡単な鑑定くらい。パーティメンバーからは、「お荷物」「邪魔」と陰口を叩かれることもしばしば。それでも、この解析スキルがなければ、この迷宮都市を生き抜くのは難しい。そんな歪んだプライドだけが、俺を支えていた。

そんな俺が、この迷宮都市「ヴェルダント」で、唯一心を許せる場所があった。それは、酒場「金色の獅子」の片隅。そこで出会った、三人の女性冒険者たちだ。

一人目は、パーティのリーダーであり、俺が「師匠」と呼ぶ、紅一点の女騎士、リディア。燃えるような赤毛と、鍛え抜かれた銀色の鎧が、彼女の鍛錬の成果を物語る。しかし、その凛々しい姿の奥には、豪快な酒豪であり、酒場での喧嘩も辞さない一面も持ち合わせている。

二人目は、小柄な体格に似合わず、巨乳を揺らしながら戦う魔術師、シルフィ。属性魔法の使い手で、特に炎の魔法は彼女の十八番。普段は人見知りだが、一度心を開くと、甘えん坊になる。俺の解析スキルが役に立たなかった時でも、彼女は「アレン君の解析、ちゃんと見てるよ」と、優しく微笑んでくれた。

三人目は、敏捷な動きで敵を翻弄する弓使い、エリス。金色の編み込みと、すらりとした長身が特徴。クールで理知的な性格だが、時折見せる少女のような笑顔に、俺は何度か心を奪われた。彼女の矢がモンスターの急所を正確に射抜く様は、まさに芸術だった。

「アレン、また遅いじゃないか。リディアさんの特製ステーキが冷めちまうぞ」

金色の獅子の扉を開けると、シルフィが俺を見つけ、手を振った。

「悪い、シルフィ。ちょっと、新しい解析方法を試してたんだ」

俺が席に着くと、テーブルには既にリディアとエリスが座っていた。リディアは豪快にステーキを頬張り、エリスは静かにワインを嗜んでいる。

「解析方法？ またいつもの、モンスターの生態を延々と書き連ねるやつか？」

リディアが口の周りにソースをつけながら、ニヤリと笑う。

「いや、今回はちょっと違うんだ。この迷宮で最近出没するようになった、新しいモンスターの解析なんだが…」

俺は、昨日手に入れたモンスターの資料を開いた。そのモンスターは、見た目はグロテスクだが、異常に強い魔力を持っていた。

「こいつ、どうも僕の解析スキルでも、弱点らしい弱点が見つからなくてね。ただ、何か、こう…不自然な部分があって」

「不自然？」

エリスが珍しく、眉をひそめた。

「そう。なんていうか…その、モンスターの体の構造とか、行動パターンとかを解析していると、時折、妙な『反応』があるんだ。まるで、僕の解析スキルに、何か…『共鳴』しているような」

俺の解析スキルは、モンスターの弱点や特徴を解析することで、そのモンスターの動きを一時的に鈍らせたり、攻撃力を低下させたりする効果があった。だが、その効果は微々たるもので、ほとんど「おまじない」程度にしか思われていなかった。

「共鳴？ なんだか怪しいな」

リディアが、豪快にジョッキをテーブルに置いた。

「だが、もしそれが本当なら、面白いじゃないか。アレンの『最弱』スキルが、意外なところで役に立つかもしれない」

シルフィが、俺の肩に手を置いた。

「アレン君の解析、いつも頑張ってるもんね。きっと、このモンスターも、アレン君なら何か見つけられるって思ってるんだよ」

その言葉に、俺の胸が温かくなった。いつもは「お荷物」扱いなのに、彼女たちは、俺の解析を信じてくれている。

翌日、俺たちはそのモンスターが出没するという、迷宮の深層へと向かった。リディアが先陣を切り、シルフィが後方から魔法で援護、エリスが遠距離から弓で牽制する。俺は、モンスターとの距離を保ちながら、解析スキルを集中させた。

モンスターは、粘着質の体液を撒き散らしながら、猛烈な勢いで襲いかかってくる。リディアが渾身の一撃を放つが、モンスターの分厚い体表に阻まれ、効果は薄い。

「くそっ！ 硬すぎる！」

リディアが歯噛みする。

「アレン、何か掴めたか？」

エリスが、モンスターの動きを縫うように矢を放ちながら、俺に問いかける。

「まだ…でも、解析していると、やはりあの『共鳴』が…」

俺は、モンスターの全身に解析スキルを集中させた。すると、モンスターの体表が、微かに青白く光り始めた。そして、その光の筋が、モンスターの特定の箇所に集まっていく。

「…！ あの光の筋は…！」

俺は、解析結果に表示された情報を凝視した。それは、モンスターの体内の、ある器官を示していた。

「リディアさん！ あのモンスター、体の奥深くに、弱点らしき器官があります！」

「器官？ どんな？」

「それが…解析しても、その器官の詳しい情報が出てこないんです。ただ…」

俺は、息を呑んだ。解析スキルが、あの不自然な「共鳴」を通して、モンスターの「感情」のようなものを感じ取っていたのだ。

「…なんか、その器官、すごく…『大切』にされているみたいなんです。まるで…」

「まるで？」

「…『蕾』みたいに、大切にされているような…」

俺の言葉に、パーティメンバーは顔を見合わせた。

「蕾…？」

シルフィが、不思議そうに呟く。

「なんだそれ？ 弱点なのに、花でも咲かせるつもりか？」

リディアが、呆れたように笑った。

「でも、アレンの解析が言うなら、信じてみるしかないだろう」

エリスが、冷静に分析する。

「その器官を狙う、ということだな」

俺は、解析スキルをさらに集中させた。すると、モンスターの「蕾」のような器官が、さらに強く光り始めた。そして、その光に呼応するように、モンスターの体表に、細い亀裂が入り始めた。

「…！ 亀裂だ！ アレン、お前の解析のおかげだ！」

リディアが、その亀裂に狙いを定め、剣を振り下ろす。

「ぐわああああっ！」

モンスターが、断末魔の叫びを上げ、崩れ落ちた。その体から、大量の魔力と、見たこともない素材が舞い落ちる。

「やった！ アレン、お前のおかげだ！」

リディアが、興奮した様子で俺の肩を叩いた。

「すごかったね、アレン君！」

シルフィが、満面の笑みで抱きついてくる。

「アレンの解析、やっぱりすごいわ。これからも、頼りにしてる」

エリスも、珍しく微笑んでくれた。

その日以来、俺の「最弱」とまで言われた解析スキルは、パーティにとってなくてはならないものになった。モンスターの弱点だけでなく、その「感情」や「本質」までも解析できるようになっていたのだ。そして、その解析スキルは、モンスターの「蕾」のような器官に触れることで、まるで「共鳴」するように、そのモンスターの持つ力を引き出すことも可能になった。

ある日、俺たちは、迷宮の最深部で、巨大なモンスターに遭遇した。そのモンスターは、圧倒的な力で、俺たちのパーティを窮地に追い込んだ。リディアの剣は折れ、シルフィの魔法は弾かれ、エリスの矢も届かない。

「くそっ！ これじゃあ…！」

リディアが、絶望的な表情で倒れ込む。

その時、俺の解析スキルが、モンスターの「蕾」に触れた。それは、これまでで最も大きく、最も眩しい光を放っていた。そして、俺は、その「蕾」が、モンスターの「成長」を司る器官であることを知った。

「…！ この蕾に、僕の解析スキルを…！」

俺は、迷いを断ち切り、解析スキルをモンスターの「蕾」に全集中させた。すると、モンスターの「蕾」が、さらに強く光り、その光は、モンスターの全身を包み込んだ。

「…！ なんだ…？ 体に力が…！」

モンスターが、驚いたように自身の体を見つめる。そして、その体には、これまで見たこともないような、美しい紋様が刻まれ始めた。

「アレン、何をしたんだ？」

リディアが、驚いた顔で俺を見る。

「このモンスターの『蕾』に、僕の解析スキルを…共鳴させたんです。そうしたら、モンスターの『成長』を…」

俺の言葉に、モンスターは、その身に刻まれた紋様を輝かせ、驚くべき力を発揮し始めた。それは、これまでとは全く異なる、純粋な力の奔流だった。

「…！ まさか、アレンの解析が、モンスターを『進化』させるなんて！」

シルフィが、驚愕の表情で叫ぶ。

「これが…アレンの解析の、本当の力…」

エリスも、目を丸くしている。

俺の解析スキルは、モンスターの「弱点」を解析するだけではなかった。それは、モンスターの「内なる声」を聞き、その「蕾」に触れることで、「成長」を促す力を持っていたのだ。

そして、その「成長」は、モンスターだけでなく、俺たち自身をも変えていく。俺は、解析スキルをさらに磨き、リディア、シルフィ、エリスと共に、迷宮都市ヴェルダントで、新たな伝説を創り上げていくことを誓った。

「アレン、お前がいないと、このパーティはもう成り立たないな」

リディアが、俺の解析結果を覗き込みながら、満足そうに笑う。

「これからも、アレン君の解析、いっぱい聞かせてね」

シルフィが、俺の頬にキスをする。

「アレンの解析は、私たちに、新しい世界を見せてくれる」

エリスが、静かに俺の手に触れる。

俺は、彼女たちの温かい視線を受け止めながら、解析スキルをさらに研ぎ澄ませていく。最弱だったはずの解析スキルは、今や、この世界で最も強力な「愛」の蕾を咲かせるための、唯一無二の力となっていた。そして、その蕾は、これからも、俺たちの冒険と共に、さらに大きく、美しく、育っていくことだろう。