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## 螺鈿の誓い、刹那の堕落

照りつける太陽が、古びた校舎の壁に突き刺さる。それは、かつて聖域であったはずの「進士学園」の、褪せた栄光の証だった。学園長室に灯る明かりは、すでに夕暮れ時を過ぎていた。分厚い絨毯に沈む足音は、ここが沈黙の支配する場所であることを物語っている。

「…ありさ。」

低く、ねっとりとした声が響く。その声の主は、進士学園の学園長、進士剛（しんし つよし）だ。齢五十を過ぎた男だが、その顔には年齢を感じさせない、むしろ熟成されたような、しかしどこか歪んだ色気が漂っている。かつては名門校の学長として尊敬を集めた彼だが、今はどこか荒んだ空気を纏っていた。

彼の目の前には、一冊のファイルが置かれている。その表紙に刻まれた「ありさ」という文字が、彼の瞳に異様な光を灯らせる。

「まさか…あのありさが、この学園に転校してくるなんてな。」

剛は、ファイルの中身を捲る。そこには、短大を辞め、この進士学園の「特別進学科」に編入してきたという、女子高生、古河ありさ（ふるかわ ありさ）の記録があった。写真の中のありさは、艶やかな黒髪を揺らし、その瞳は挑発的な輝きを宿している。

「ギャル、か。」

剛は、ありさの写真を指先でなぞる。その指先が、ファイルから滑り落ち、まるで彼女の肌に触れるかのような仕草をしていた。

（あれから、もう三年か…）

剛の脳裏に、三年前の出来事が鮮明に蘇る。まだ、彼が世間から注目される教育者であった頃。あるパーティーで、彼はありさと出会った。当時、高校生だったありさは、その自由奔放な言動と、圧倒的な美しさで、周囲の男たちを魅了していた。剛も、その魅力に抗うことができなかった。

（あの夜…彼女に、辱められた…！）

剛は、顔を歪める。ありさは、酒の勢いもあったのだろうが、剛を、その奔放な言葉で徹底的に弄んだのだ。学園長という地位、世間的な信用、すべてを嘲笑うかのような彼女の態度は、剛のプライドを深く傷つけた。そして、その屈辱は、同時に、抗いがたい欲望となって彼の心に根付いた。

「リベンジ…そして、この学園で、俺の支配下に置く。」

剛の瞳に、黒い炎が燃え上がる。彼は、ありさをこの学園に引き入れたのは、偶然ではなかったのだ。裏で手を回し、彼女の編入を画策したのだ。ありさにとっては、単なる転校。しかし、剛にとっては、三年前の屈辱を晴らし、彼女を我が物とするための、壮大な復讐劇の幕開けだった。

翌朝。

進士学園の門をくぐるありさは、周囲の静けさに少し戸惑っていた。都会の喧騒に慣れた彼女にとって、この学園の空気は、まるで別世界のように感じられた。

「うわ、なんかすっげー静かじゃん。こんな学校、初めてかも。」

ありさは、友人の沙織（さおり）にLINEを送りながら、校内を歩く。彼女は、以前通っていた短大で、些細なトラブルを起こし、退学処分となった。そして、家族の計らいで、この進士学園に転校することになったのだ。

「ま、別にどうでもいいけど。どーせ、またすぐ飽きるし。」

ありさは、気だるげに呟き、指定された教室へと向かう。彼女の周りには、どこか浮世離れした雰囲気を持つ生徒たちが、静かに集まっていた。

「…あれ、なんか、重い雰囲気じゃね？」

教室に入ると、そこには、まるで時間が止まったかのような、静寂が支配していた。生徒たちは、皆、一様に伏し目がちで、誰かが話しかけることもない。

（マジで、ヤベー学校なんだけど…）

ありさは、思わず鼻白む。しかし、彼女の持ち前の楽天的な性格は、すぐにこの状況に慣れていった。

「ま、いっか！なんか、逆に面白そうじゃん！」

ありさは、空いている席に座り、窓の外に目をやる。青い空、白い雲、そして、遠くに見える街並み。彼女は、この学園での生活を、まだ何も知らない。

その日の午後のこと。

ありさは、学園長室へと呼び出された。

「は？学園長室？なんで？」

ありさは、戸惑いつつも、指示された場所へと向かう。学園長室の扉を開けると、そこには、昨夜とは打って変わって、穏やかな表情の進士剛がいた。

「ようこそ、古河ありささん。」

剛は、満面の笑みでありさを迎える。その笑顔には、昨夜のねっとりとした色気は微塵も感じられない。

「え、あ、どうも…」

ありさは、剛のあまりの変わりように、少し拍子抜けする。

「自己紹介は、もう済んでいると思いますが、改めて、この進士学園の学園長、進士剛です。」

剛は、ありさに挨拶をしながら、彼女の様子をじっくりと観察していた。その瞳には、昨夜の、あの歪んだ欲望が再び宿り始めていた。

「いやー、まさか、あなたがこの学園に転校してくるとは、本当に驚きましたよ。なんでも、前の学校で、色々あったとか？」

剛は、わざとらしい心配そうな表情で問いかける。

「うっさいな、別に。なんか、変な噂とか、流れてんの？」

ありさは、警戒心を露わにする。

「いやいや、そんなことはありませんよ。ただ、あなたが、ここで、充実した学園生活を送れるように、私なりに、サポートしたいと思っただけです。」

剛は、そう言いながら、ありさに近づく。その距離感に、ありさは微かな不快感を覚える。

「…なんか、勘ぐっちゃうんですけど。」

「勘ぐう？何をですか？」

剛は、無邪気な笑顔を浮かべる。その笑顔の裏に隠された本心に、ありさはまだ気づいていない。

「いや、なんか、私を、狙ってる、みたいな？」

ありさは、冗談めかして言う。しかし、その言葉は、剛の胸に火をつけた。

「狙う？ふふっ…ありささん。あなたのような魅力的な女性を、放っておけるわけがないでしょう？」

剛の声のトーンが、一変する。その瞬間、ありさは、この学園長が、本物の「変態」であることを悟る。

「…なに、言ってんの？」

ありさは、後ずさる。しかし、学園長室の扉は、すでに閉ざされていた。

「さあ、ありささん。ここからが、本当の…私の、支配が始まるんです。」

剛の言葉と共に、部屋の照明が、ゆっくりと落とされる。ありさの顔に、恐怖の色が浮かぶ。

「…逃がさないよ。あの夜の、借りを、返す時が来たんだ。」

剛の瞳には、歪んだ欲望と、激しい執着が燃え盛っていた。ありさは、この進士学園という、閉鎖された空間で、学園長、進士剛による、悪夢のような「リベンジ鬼ピス生活指導」から逃れることができないことを、まだ知らなかった。

「…うそでしょ…？」

ありさの、か細い悲鳴が、静寂に響き渡った。それは、この学園の、暗く、歪んだ歴史の、新たな一ページが、開かれた瞬間だった。

（…なんとか、しないと。）

ありさは、必死に頭を巡らせる。しかし、目の前の剛は、すでに、欲望の塊と化し、彼女の抵抗を、ただの戯れとしか見ていない。

「さあ、まずは、あなたのその、生意気な口を、黙らせてあげましょうか。」

剛は、ゆっくりとありさに近づく。その手には、どこか冷たい光を放つ、鍵束が握られていた。それは、ありさを、この学園から、どこにも行かせないという、剛の意思表示だった。

「…ひっ…！」

ありさは、恐怖で身がすくむ。彼女の、無垢な瞳に、絶望の色が宿り始める。

「怖がらなくて、いいんですよ。これは、あなたへの、愛情表現なんです。」

剛は、ありさの頬に、その指先を滑らせる。その指先には、支配欲と、歪んだ愛が、混ざり合っていた。

「…やめて…！」

ありさは、叫ぶ。しかし、その声は、剛の歪んだ悦びを、さらに煽るだけだった。

「やめろ、と？ふふっ、せっかく、この学園で、あなたに再会できたのに、もう、終わりにするわけには、いかないでしょう？」

剛は、ありさの肩を掴み、そのまま、部屋の奥にある、重厚なソファへと押し倒す。ありさは、抵抗しようとするが、剛の力は、彼女の想像を遥かに超えていた。

「…離して…！」

ありさは、必死にもがく。しかし、その抵抗は、剛の興奮を煽るだけだ。

「いやだよ。もう、二度と、あなたを、離したくない。」

剛は、ありさの髪を掴み、その顔を、自身の顔へと引き寄せる。ありさの、甘く、抵抗する声が、剛の耳朶に、心地よく響き渡る。

「…この、変態…！」

ありさは、叫びながら、剛の顔を殴ろうとする。しかし、その手は、剛の腕に阻まれ、そのまま、彼の胸に埋もれてしまう。

「いい子だ。そのまま、私に、身を委ねなさい。」

剛は、ありさの背中に、その手を回す。その手には、支配と、欲望が、混ざり合っていた。

「…もう、嫌…！」

ありさは、泣き崩れる。しかし、その涙も、剛の、歪んだ悦びを、さらに煽るだけだ。

「大丈夫。これから、たくさん、あなたを、愛してあげるから。」

剛は、ありさの耳元で、囁く。その言葉には、歪んだ愛と、支配欲が、混ざり合っていた。

「…もう、二度と、逃がさない。」

剛の、低く、ねっとりとした声が、学園長室に響き渡る。ありさの、絶望的な抵抗も、今や、剛の、支配欲を、満たすための、単なる戯れと化していた。

進士学園の、暗く、歪んだ夜は、まだ始まったばかりだった。ありさの、無垢な魂が、この学園長の、歪んだ欲望によって、徐々に、蝕まれていく。その先にあるのは、更なる絶望か、それとも、意外な結末か。それは、まだ、誰にも分からない。

しかし、確かなことは、この進士学園という、静寂に包まれた空間で、今、一人の少女が、学園長の、激しい欲望の餌食となっているということだけだ。そして、その「リベンジ」は、果てしなく続く、歪んだ、そして、刹那の堕落の物語を、紡ぎ出していくのだろう。

（あとがき：この物語はフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係ありません。また、性的描写を含みますが、それはあくまで物語の展開上の演出であり、推奨するものではありません。）