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性なる夜、ここは天国かそれとも地獄か

## 聖夜に開く、禁断の扉

クリスマスイブの夜、街は浮き足立っていた。きらびやかなイルミネーションが雪に反射し、冷たい空気を温かい期待感で満たしている。そんな喧騒とは無縁の、人里離れた森の奥深くに、ひっそりと建つ一軒の屋敷があった。その名は「聖なる園」。

「聖なる園」は、外部からはほとんど知られていない、ある教団の本拠地だった。教団の名は「歓喜の秘儀」。その教えは、人間が本来持っている「性」という根源的な力を解放し、至高の快楽へと至ることを目指すというものだった。そして、この聖夜、彼らには特別な「Xmas限定特典」が用意されていた。それは、普段は厳重に秘匿されている、教団が長年研究し続けてきた「至高の秘薬」を体験できるというものだ。

屋敷の広間は、ろうそくの灯りと、どこからともなく流れてくる幽玄な音楽で満たされていた。集まった信者たちは、皆、顔に恍惚とした表情を浮かべている。純白のローブを纏った彼らは、まるで異世界の住人のように神秘的でありながら、どこか狂気を孕んでいた。

教団の教祖である「聖母」は、妖艶な微笑みをたたえ、ゆっくりと壇上へと歩み出た。彼女の纏う深紅のドレスは、その身を包む神秘性と官能性を際立たせていた。

「我が愛しき子羊たちよ」

聖母の声は、甘く、それでいて力強く、広間全体に響き渡った。

「今宵、我々は新たな次元へと誘われる。長きにわたる探求の果てに、ついに到達した至高の境地。それは、肉体の限界を超え、魂の解放をもたらす『歓喜の聖杯』だ」

信者たちは、息を呑んで聖母の言葉に聞き入る。彼らの目は、期待と欲望でギラギラと輝いていた。

「この『聖なる果実』は、君たちの魂に眠る、あらゆる禁忌を解き放つ。そして、究極の快楽、すなわち『天国』へと導くだろう。しかし、その道は決して平坦ではない。己の弱さと向き合い、欲望の奔流に身を委ねなければならない。もし、それができなければ…」

聖母の言葉に、一瞬、場が静まり返った。

「…地獄の淵へと叩き落されるだろう」

その言葉は、まるで予言のように、信者たちの心に深く刻み込まれた。

「さあ、今宵、君たちはどちらを選ぶ？」

聖母は、指先に持っていた小さな水晶の小瓶を掲げた。中には、琥珀色の液体が鈍く光っている。それが「歓喜の秘薬」だった。

信者たちは、次々と聖母の元へと進み出て、その「聖なる果実」を受け取った。彼らは、まるで儀式のように、その液体を一口ずつ、ゆっくりと飲み干していく。

液体が体内に巡り始めると、信者たちの表情に変化が現れ始めた。最初は、微かな吐息。それが次第に、喘ぎ声となり、やがて、抑えきれない歓喜の叫びへと変わっていった。

「ああ…！これだ…！これこそが…！」

「天国だ…！私は今…天国にいる！」

信者たちは、互いの体を求め合い、狂ったように踊り始めた。広間は、欲望の渦と化した。彼らの体は、もはや理性を失い、本能のままに激しくぶつかり合っていく。

しかし、その恍惚とした表情は、永遠には続かなかった。

数時間後、広間には、先ほどの歓喜の叫びは消え失せていた。代わりに響いていたのは、苦悶の呻き声と、かすかな嗚咽だった。

「う…うう…体が…体が…！」

「どうなっているんだ…！もう、動けない…！」

「助けて…！誰か…！」

「歓喜の秘薬」は、その効果を増幅させるにつれて、信者たちの肉体に耐え難い負荷をかけていたのだ。彼らの体は、快楽のあまり、徐々にその限界を超えてしまっていた。

「ち●ぽがもたない」という言葉が、この惨状を的確に表していた。かつて至高の快楽を求めていた彼らは、今や、その欲望の奔流に飲み込まれ、肉体的な崩壊という、暗く深い「地獄」に沈んでいた。

ある信者は、全身の筋肉が硬直したまま、まるで石膏像のように動かなくなった。またある信者は、快楽のあまり、自らの体を傷つけ始めていた。彼らの目は、もはや歓喜の色を失い、恐怖と絶望に歪んでいた。

聖母は、そんな信者たちの惨状を、静かに見下ろしていた。彼女の表情は、もはや妖艶な微笑みではなく、冷たい無関心に満ちていた。

「やはり、至高の快楽には、それ相応の代償が伴うのだ」

聖母は、呟いた。彼女の言葉には、一切の同情の色はなかった。

「君たちは、『天国』に手が届きかけた。しかし、その甘美な誘惑に溺れ、自らの限界を見誤った。それが、君たちの過ちだ」

聖母は、広間の中央に置かれた祭壇へと歩み寄った。そこには、さらに大きな、そしてより禍々しい輝きを放つ水晶の壺があった。

「これは、『真実の秘薬』。これこそが、我々が真に求める、真の解放をもたらすもの」

聖母は、その壺に手を触れた。すると、壺の中から、さらに濃密な、そして得も言われぬ芳香が放たれた。それは、甘く、そしてどこか病的な香りだった。

「『歓喜の秘薬』は、ただの序章に過ぎない。真の『性なる夜』は、ここから始まるのだ」

聖母の瞳が、不気味な光を宿した。

「さあ、我が愛しき子羊たちよ。君たちの『快楽地獄』は、まだ始まったばかりだ」

聖夜の森に、再び、悲鳴のような、しかしどこか恍惚としたような、歪んだ声が響き渡った。それは、天国への道を探し求めた者たちが、自らの欲望の果てに辿り着いた、暗く、そして恐ろしい「地獄」の始まりを告げていた。

「性なる夜、ここは天国かそれとも地獄か」

その問いに対する答えは、すでに、この「聖なる園」の暗闇の中に、無残に散らばっていた。彼らにとって、もはや天国も地獄も、その区別は曖昧になっていた。ただ、己の限界を超えた、狂おしいまでの「快楽」の残滓だけが、彼らの肉体と魂に焼き付いていた。そして、それは、これからさらに深淵へと沈んでいく、終わりのない「惨状」を予感させていた。