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## 錆色の監獄

錆びついた鉄格子が、微かな隙間から差し込む光を無慈悲に断ち切る。埃と湿気が混じった匂いが鼻をつき、肺の奥底まで染み渡るように、少女の希望を蝕んでいく。名前も、年齢も、過去さえも思い出せない。ただ、自分がここに閉じ込められているという事実だけが、重く、冷たい鎖のように少女の心を縛り付けていた。

少女は痩せ細り、その瞳には光が宿っていない。かつては長く艶やかだったであろう髪は、今や埃まみれの藁のようだ。粗末な麻の服が、辛うじてその身を覆っている。彼女はただ、鉄格子の向こうの暗闇を見つめていた。そこには、何もなかった。少なくとも、今の彼女にはそう見えた。

突然、重々しい金属音が監獄に響き渡る。錆びついた扉が開かれる音だ。少女は身を震わせ、恐怖に顔を歪めた。連れてこられた当初は抵抗も試みた。しかし、無意味だった。抵抗すれば、もっと酷い目に遭うだけだと、少女は骨身に染みて理解していた。

扉の向こうから、ヌメッとした音が近づいてくる。それは、人間の足音ではない。何かが床を這い、ずるずると音を立てている。少女は息を呑み、壁際に身を寄せた。

現れたのは、異形のものだった。不定形で、半透明な緑色の塊。まるで溶けたゼリーのようなそれは、ゆっくりと、しかし確実に少女に近づいてくる。その中心には、爛々と光る赤い目が一つ。その目は、獲物を捉えた捕食者のように、冷酷に少女を見つめていた。

少女は知っていた。これは、スライムだ。しかし、普通の生物ではない。スライムは、言葉を理解し、思考し、そして何よりも、「エロ」という概念に執着している。

スライムは、言葉を発する代わりに、脳に直接語りかけてくる。「今日も、楽しませてくれるのだろう？」

少女は震えながら首を横に振った。もう嫌だ。何度、同じことを繰り返せば終わるのだろうか。彼女の心は、既に限界を超えていた。

しかし、スライムは少女の意思など無視するかのように、その不定形の体を伸ばし、少女に絡みついてきた。冷たく、粘つく感触が肌を這い、自由を奪っていく。少女は悲鳴を上げようとしたが、喉がカラカラに乾き、音にならない。

スライムは、少女の体を貪るように撫で回し、服を剥ぎ取ろうとする。少女は抵抗しようとしたが、スライムの力は想像以上に強い。無数の触手が絡みつき、彼女の動きを封じ込めていく。

「やめて…お願い…」

かすれた声が、監獄にむなしく響き渡る。しかし、スライムは何も答えない。ただ、その赤い目を爛々と輝かせ、少女を蹂躙するだけだ。

少女は絶望に打ちひしがれていた。もはや、抵抗する気力も残っていない。ただ、涙が頬を伝い、床に染みを作っていく。

この監獄で、どれだけの時間が経過したのだろうか。一日、一週間、一ヶ月…もはや、時間感覚すら麻痺していた。ただ、毎日、同じ悪夢が繰り返されるだけだ。

スライムは、少女の体を好き放題に弄び、飽きると、また暗闇へと消えていく。そして、次の「楽しみ」のために、再び現れるのだ。

少女は、いつしか抵抗することを諦めていた。それは、諦観に近い感情だった。もう、何もかもどうでもいい。ただ、この苦しみから解放されたい。

ある日、スライムがいつもより執拗に少女を弄んでいる時だった。突然、監獄全体が激しく揺れ始めた。天井から埃が落ち、壁にヒビが入る。スライムも、その不定形の体を大きく揺さぶり、戸惑っているようだった。

「何が…起こっているんだ？」

スライムは脳内に問いかけてくる。しかし、少女は答えることができなかった。彼女も、何が起こっているのか分からなかったのだ。

揺れはますます激しくなり、ついに監獄の天井が崩れ落ちてきた。瓦礫が降り注ぎ、少女とスライムは瓦礫の下敷きになった。

少女は、瓦礫の下で意識を失いかけた。しかし、その瞬間、脳裏に鮮明なイメージが浮かび上がってきた。それは、美しい緑の草原と、青く澄んだ空のイメージだった。そして、遠くから聞こえる、優しい歌声。

その歌声に導かれるように、少女は最後の力を振り絞り、瓦礫を押し退けて立ち上がった。そして、崩壊した監獄の壁を抜け、外の世界へと足を踏み出した。

外の世界は、少女が想像していた以上に美しかった。一面に広がる緑の草原、どこまでも続く青空、そして、心地よい風が頬を撫でる。

少女は、自分がどこにいるのか分からなかった。しかし、彼女は確信していた。ここは、監獄ではない。ここは、自由な世界なのだ。

スライムは、瓦礫の下で身動きが取れずにいた。その赤い目は、憎悪と焦燥の色を帯びていた。

「待て…逃がさないぞ…」

スライムは、必死に瓦礫を押し退けようとした。しかし、監獄の崩壊は想像以上に酷く、その巨体を自由にするのは容易ではなかった。

少女は、スライムを振り返り、静かに微笑んだ。その瞳には、かつてのような絶望はなかった。代わりに、希望の光が宿っていた。

「さようなら」

少女は、そう呟き、草原を走り出した。スライムの声は、次第に遠ざかり、やがて聞こえなくなった。

少女は、どこまでも続く草原を走り続けた。彼女は、自分の過去を知らない。どこへ向かえばいいのかも分からない。しかし、彼女は恐れてはいなかった。なぜなら、彼女はもう、一人ではないからだ。

風が、少女の髪を優しく撫でる。太陽が、彼女の肌を温かく照らす。そして、心の中に響く、優しい歌声。

その歌声は、少女に勇気を与え、希望を与え、そして、生きる意味を与えてくれる。

少女は、新しい人生を歩み始めた。過去の記憶はなくても、未来に向かって、力強く、歩んでいく。

そして、いつか、自分の名前を取り戻し、自分の居場所を見つけることができると、信じている。

錆色の監獄は、もう、彼女の心の中に存在しない。彼女は、自由な空の下で、新たな一歩を踏み出したのだ。