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えー……ずいぶんと音沙汰がない状況だったのですが、ようやく完成にこぎつけました。

随分と更新していなかったにもかかわらず、ホームページをチェックしていただいて方もいて……。

一つの一つのシーンを手付けモーションで丁寧に仕上げました。

何卒お買い上げよろしくお願い致します!!

昏い部屋に、パソコンの液晶だけが青白い光を放っていた。日付は変わってすぐのこと。日付変更を告げるシステム音すら、奏多には無機質なノイズにしか聞こえなかった。彼の目の前には、完成したとされる3Dアニメーションの最終確認画面が表示されていた。タイトルはシンプルに「J」。アイドル、珠希（たまき）の頭文字だった。

珠希。あの眩いばかりの笑顔、ステージ上を縦横無尽に駆け回る姿、圧倒的な歌唱力。全てが完璧だったトップアイドル。その珠希が、このアニメーションの中では、無抵抗、無表情で、ただそこに存在するだけの存在になっていた。

この作品を制作するに至った経緯は、簡単には説明できない。奏多は、かつて珠希の大ファンだった。彼女の歌声に救われた過去があり、その感謝の気持ちと、創造的なエネルギーをぶつけるために、この3Dアニメーション制作に乗り出したのだ。しかし、制作期間は予定を大幅に超過し、奏多は何度も挫折しそうになった。

最初は、華やかなステージでの珠希を再現しようとした。完璧な衣装、完璧なメイク、完璧なパフォーマンス。しかし、それは現実の珠希を模倣するだけで、奏多自身の表現にはならなかった。彼は、何かが足りないと感じていた。

ある日、奏多は偶然、珠希のドキュメンタリー番組を目にした。そこには、ステージの裏側、華やかな衣装に隠された努力、そして、彼女の人間らしい一面が映し出されていた。疲れ切った表情、涙を堪える姿、そして、時折見せる、かすかな不安。

それまで、奏多にとって珠希は、完璧で、手の届かない存在だった。しかし、このドキュメンタリーによって、彼女は人間であり、弱さを持つ存在であることを知った。そして、奏多は気が付いた。彼が表現したいのは、完璧な珠希ではない。現実の珠希、ありのままの珠希の姿なのだ。

そこで、彼は方向転換を決意した。華麗なステージではなく、静謐な空間の中で、無抵抗な珠希を描くことにした。彼女を、完璧な偶像ではなく、一人の人間として表現することにした。

アニメーションは、シンプルな構成だった。白い部屋に、白いワンピースを着た珠希が座っているだけ。彼女は何も言わず、何もせず、ただそこにいる。だが、彼女の目は、何かを訴えているようだった。過去、現在、未来。数え切れないほどの感情が、彼女の瞳に凝縮されていた。

奏多は、その瞳に、全ての想いを込めた。彼女の努力、苦悩、そして、わずかな希望。そして、自分自身の感謝と、未練、そして、彼女への憧憬。

完成したアニメーションは、静かだが、重みのある作品だった。それは、華やかさや派手さとは無縁のものだった。しかし、その静寂の中に、深く、そして、複雑な感情が渦巻いていた。それは、珠希という一人の人間への、深い愛情と敬意の証だった。

ホームページにアップロードされた作品には、予想外の反響があった。多くの人々が、その静寂の中に潜む深遠なメッセージを読み取り、感動した。珠希ファンはもちろんのこと、アイドルに興味のない人々からも、高い評価を得た。

あるユーザーは、「完璧なアイドル像ではなく、人間としての彼女の脆さと強さを表現している点に感動しました」とコメントを残していた。また別のユーザーは、「静寂の中に、多くの感情が感じられます。珠希のこれまでの人生と、作者の思いが伝わってきました」と書き込んでいた。

奏多は、それらのコメントを読みながら、初めて安堵感に包まれた。何ヶ月にも及ぶ努力は、無駄ではなかった。彼は、珠希という存在を通じて、多くの人々の心に触れることができたのだ。

彼の制作した「J」は、単なる3Dアニメーションではなく、一人のファンが、憧れのアイドルへの想いを込めて制作した、静かな、しかし、力強いラブソングだった。それは、珠希の無抵抗な姿の中にこそ、彼女の真の姿、そして、奏多自身の魂が宿っていたからだった。そして、それは、多くの人々の心に、静かに、しかし確実に響き渡っていった。彼のホームページには、感謝の言葉とともに、新たな作品への期待が寄せられていた。奏多は、パソコンの画面を閉じ、静かに息を吐いた。次の作品に向けて、彼はすでに、新たな構想を練り始めていた。