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ある静かな町で、2人の10代の少女--エイミーとリリー--が突然姿を消した。 ふたりは一緒に育ち、よく遊んでいた親友だった。 失踪当日、ふたりは森へピクニックに行く予定だった。

町の人々はショックを受け、捜索を開始した。 警察も捜査に介入したが、数日経っても手がかりはなかった。

## 囁きの森の迷子

静寂が支配する、緑豊かな谷あいの町、エリンウッド。その穏やかな空気は、エイミーとリリー、二人の十代の少女の突然の失踪によって、一瞬にして凍りついた。幼い頃から片時も離れることなく育ってきた二人は、エリンウッドの住人にとって、まるで家族のような存在だった。エイミーの明るい笑顔と、リリーの物静かな美しさは、町の風景の一部となっていた。

失踪当日、二人はいつものように、手作りのサンドイッチと水筒を詰め込み、エリンウッドの西端に広がる「囁きの森」へとピクニックに出かける予定だった。森は、町から少し離れた場所にあったが、子供の頃から二人の遊び場であり、秘密の隠れ家でもあった。その日も、いつものように、希望に満ちた笑い声が、町に響き渡るはずだった。

しかし、約束の時間になっても、二人は帰ってこなかった。夕闇が迫り、心配になったエイミーの両親が、リリーの両親に連絡を取った。すぐに、二人の少女が一人で森にいるはずがない、という不安が町全体を駆け巡った。

「エイミーとリリーが、まだ戻ってこないのよ！」

エイミーの母親、エレインは、震える声でリリーの母親、サラに電話をかけた。サラもまた、不安で胸が張り裂けそうだった。「うちにもまだ帰ってこないわ。きっと、森で遊んでいるうちに時間が遅くなっただけよ…そう信じたいけど…」

夜が明ける頃には、町中がざわめき立っていた。誰かが、二人が森へ向かったことを目撃していたのだ。すぐに、心配した町の人々が、手分けをして森の入り口に集まり始めた。父兄たちは懐中電灯を手に、不安げに顔を見合わせている。

「エイミー！リリー！」

誰かが叫んだ。その声に呼応するように、次々と「エイミー！」「リリー！」と、二人の名前を呼ぶ声が森の入り口から響き渡った。しかし、返ってくるのは、風に揺れる木々の葉擦れの音と、遠くで鳴く鳥の声だけだった。

町長であるジェイコブは、早朝から警察署に駆け込んだ。経験豊かな保安官、トムが、事態の深刻さを理解し、すぐに捜索隊を組織してくれた。しかし、広大な囁きの森は、その名の通り、どこからか囁くような風の音だけが響き、深い静寂に包まれていた。

捜索は、朝から夕方まで続いた。森の入り口から、二人がよく遊んでいた開けた場所、そして秘密の隠れ家だったと言われる、岩陰まで、くまなく捜索した。しかし、二人の姿はどこにも見当たらなかった。残されていたのは、二人がピクニックのために持っていったはずの、手作りのバスケットが、森の奥深く、苔むした倒木の上に、まるで置き去りにされたかのように、ひっそりと置かれているだけだった。バスケットの中には、まだ一口も食べられていないサンドイッチと、半分ほど残った水筒が入っていた。

「こんなところまで来て、何があったんだろう？」トム保安官は、眉間に深い皺を刻んで呟いた。

数日が経っても、二人の失踪に関する新たな手がかりは、一切得られなかった。警察の捜査も、当初の勢いを失い始めていた。町の人々の間には、絶望と不安が静かに広がりつつあった。

「まさか、誘拐？それとも…」

陰鬱な噂が、町を囁くように這い回った。囁きの森には、古くから伝わる曰く因縁があった。時折、森の奥から聞こえる不思議な音や、姿の見えない何かが、森をさまよう者の魂を奪うという、そんな不気味な伝説だ。子供の頃、エイミーとリリーも、そんな話を聞いては、面白がりながらも、少しだけ怯えていた。

エイミーの家では、エレインが毎日、娘の部屋で、彼女の残した絵や日記を眺めては、涙に暮れていた。リリーの家でも、サラは、娘の寝顔を思い出し、胸を締め付けられていた。二人の両親は、互いに慰め合うことさえできず、ただ深い悲しみの中に沈んでいた。

ある日、トム保安官は、二人の自宅を再度訪れた。エイミーの部屋の机の上には、数枚のスケッチブックが置かれていた。その中に、一枚の奇妙な絵があった。それは、二人が森の奥で、白く輝く何かに手を伸ばしている様子を描いたものだった。絵の端には、走り書きで「光…」とだけ書かれていた。

「光…？」トム保安官は、首を傾げた。

リリーの部屋では、彼女のベッドの下から、小さな木箱が見つかった。箱の中には、二人の友情の証である、色とりどりの石や、貝殻、そして、二人の写真が入っていた。その中の一枚の写真には、二人が、森の奥で見つけたという、奇妙な形をした木の実を手に、満面の笑みを浮かべている姿が写っていた。

「あの木の実…」トム保安官は、絵の「光」という言葉と、この写真の木の実が、何か繋がっているのではないか、という漠然とした予感に駆られた。

数日後、トム保安官は、信頼できる数人の町民と共に、再び囁きの森へと足を踏み入れた。前回とは違い、今回は、二人が足跡を残したであろう場所、そして、あの奇妙な木の実が生えているという場所を重点的に捜索することにした。

森の奥深く、これまで捜索が及ばなかった場所へと進んでいくと、不思議な現象が起こり始めた。木々の葉が、まるで呼吸するかのように、かすかに揺れ、地面からは、微かな光のようなものが漏れ出ているように見えた。そして、風の囁きが、次第に、まるで誰かの声のような、言葉にならない響きへと変わっていった。

「これは…一体…」

戸惑いながらも、トム保安官たちは、その不思議な現象に導かれるように、さらに森の奥へと進んでいった。やがて、彼らの前に現れたのは、これまで見たこともない、幻想的な光景だった。

そこは、森の奥にひっそりと佇む、小さな泉のほとりだった。泉の水は、まるで夜空の星々を映し出したかのように、キラキラと輝いていた。そして、泉の周りには、あの奇妙な木の実が、まるで宝物のように、いくつも実っていた。その木の実からは、淡い光が放たれており、周囲の空気を、不思議な温かさで満たしていた。

「これは…」

トム保安官は、息を呑んだ。その泉のほとりに、二人の少女が、向かい合って座っていた。彼女たちの表情は、穏やかで、まるで夢を見ているかのようだった。しかし、彼女たちの周りには、かすかな光の粒子が舞い、まるで、彼女たちが、この泉の光と一体化しているかのようにも見えた。

「エイミー！リリー！」

トム保安官は、思わず声をかけた。しかし、二人は、その声に反応しなかった。ただ、静かに、微笑んでいるように見えた。

その時、泉から、さらに強い光が放たれた。それは、まるで、二人の少女を、優しく包み込むかのような光だった。そして、光は次第に強くなり、ついには、二人の姿を、完全に覆い隠してしまった。

光が収まった後、泉のほとりには、何も残っていなかった。エイミーも、リリーも、その姿を消していた。残されていたのは、静かに輝き続ける泉と、その周りに散らばる、光り輝く木の実だけだった。

町に戻ったトム保安官たちは、見たものをそのまま町長に報告した。しかし、その話を聞いた町の人々は、何が起こったのか、理解することができなかった。科学的な説明がつかない、あまりにも不可思議な出来事だったからだ。

エイミーとリリーの失踪は、エリンウッドの歴史に、謎として刻み込まれた。二人が、あの泉の光に導かれ、どこか別の世界へと旅立ったのか、それとも、単に、森の奥深くに迷い込んでしまったのか、誰にも分からない。

しかし、エリンウッドの住人たちは、あの静かな谷あいの町で、二人の少女が、決して忘れられることはないことを知っていた。そして、囁きの森の奥深く、秘密の泉のほとりでは、今もなお、あの不思議な光が、二人の少女を、静かに見守り続けているのかもしれない。時折、風が森を吹き抜ける時、まるで二人の少女の囁きが聞こえてくるかのような、そんな気がするのだった。